第10回 関空の沈下対策

(H18.11.8)

前回に引き続き空港の話題です。

世界初の海上空港が長崎空港であることは前回述べましたが、国際空港として稼動している初の海上空港はこの関西国際空港が初めてです。海岸から5km沖合いにあるので騒音問題が解決され、わが国の国際空港としては24時間運用が可能となった初の空港でもあります(国内線としては新千歳空港が最初)。

関西国際空港(以下関空)は大阪湾の沖合い5kmの海上をいきなり仕切り、その中に大量の土砂を運び入れて人工島としています。水深20mほどの広いエリアを陸化するにあたって、大きな問題となったのが地盤の沈下です。水面下で埋め立てられる土砂は転圧ができないために非常に軟弱です。空港施設の荷重に耐えられないばかりか、その土砂の重み自体によって大きく圧縮(※)するということがあります。さらに大きな問題が、海底にはこれまで数千年以上にわたって堆積していた沖積層(河川などによって運搬され沖合いに沈降した軟弱な土層)が、やはり20m近くもあるということ。この地層も土砂の重みによって圧縮していきます。

※ここで「圧縮」といっているのは、地盤工学的に正しくは「圧密」です。土の中に含まれている大量の水分が、上からの荷重によって押し出され、脇に逃げていく(排水される)こと、すなわち圧縮によって土粒子の密度が増す現象です。排水された水のボリュームに相当する体積が収縮し、土砂は埋め立てたそばから「圧密沈下」を起こします。

沖積層については、あらかじめサンドドレーンという工法で砂杭を形成し、土中の水分を強制的に吸い上げることで、人工的に圧密沈下を促進させ、将来だらだらと発生し続けるであろう沈下を短期に終了させる作戦が採用されました。粘土は水の通りが悪いので、砂杭を入れることで水の抜け道(排水路)ができるのです。その数何と100万本。(関空は滑走路の増設のために第二期工事がやがて完成する予定で、人工島がふたつになります。二期島ではさらに120万本が打設されました。)

さて、問題はこれだけではありませんでした。盛土がよほど重かったらしく、沖積層の下部にある洪積層までも沈下したのです。少なくとも堆積してから1万年以上は経過し、上部の沖積層の重みに見合った圧密は終了していたはずの洪積層ですが、新たな盛土が追加されたことで、ふたたび沈下のスイッチが入ったのです。寝た子を起こしてしまったのですね。戸建住宅で洪積層が出てくれば沈下など起こすはずがない安心材料になりますが、さすがに20mも盛土をすれば洪積層でも持たないのです。図の最下層にある下部洪積層はコンクリートくらいの硬さと説明されていて、固体に近く排水される水も含んでいないので、いまさら圧密は発生しないと予想されていたのが、土粒子そのものが潰れて圧壊するクリープ沈下という珍しい現象まで引き起こしています。

関西国際空港株式会社のホームページには「沈下への取り組み」なる説明がされているので引用します。
「平成17年12月の計測結果によると、(中略)工事開始(1987年)からの平均の沈下量は12.4mでした。この沈下のうち、開港までに9.82mの沈下が終わっており、開港からの沈下量は2.57mです。1年間の17点の平均沈下量をみると、開港時には年間50cmの沈下であったものが年々減少し、平成16年では12cm、平成17年では10cmへと、沈下は順調に収束傾向にあります。」

とはいっても、沈下がほぼ終息するまでには50年を要するそうで、最終的な総沈下量は18mと算定されています。建築基準法では広域埋立地は、造成後30年を放置せよとあるのですが、関空でそれをやっていたのでは間に合いません。沈下が起きることを前提に建物が施工されることになりました。

どうしたかというと、建物荷重の均等化をはかるために、地下階のある旅客ターミナルビルの中央が両翼よりも軽くなるので、バランスをとるために36万tの鉄鉱石を敷き詰め故意に重くしています。沈下は許容するものの、それ以上に不同沈下が怖いのです。地下室というのは排土された土の重量分が空洞に置き換わり、地盤にとっての負担が軽減するので沈下量が小さくなります。ですから軟弱地盤に家屋を建てるときには総地下にすることが有効な沈下対策になるのですが、関空では局部的に軽くなることが問題になりました。

防ぎきれない微妙な不同沈下については、870本ある柱(柱にかかる集中荷重は800t)の基部にあらかじめ沈下修正用の油圧ジャッキを設置し、センサーですべての柱の沈下状況を自動計測しながら、不同沈下が顕著な柱をジャッキアップして浮かせ、その隙間に鋼製のプレートを挿入して水平を維持しています。プレートは次々に足していくのではなく、別の柱が沈下すればその柱のレベルに合わせて引き抜くことで、全体が常に水平であるように微調整をしているのです。沈下を抑止するのではなく、建物の構造に支障がないように沈下を均等化するのです。地下階の階段を数段多く作って床に隠してあるとか、壁が二重構造で伸縮するなどの仰天の工夫もしてあります。